大判例

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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和30年(う)140号 判決

記録に依れば、被告人杉川三助に対する昭和二十九年九月十八日付起訴状掲記の公訴事実は「被告人は昭和二十九年八月十日施行の大野市長選挙に際し、同市長に立候補した斎藤重雄の選挙運動者であるが、同候補者の当選を得しめる目的を以て、同月七日頃大野市春日二百二十五の五十七番地の川崎港方に於て、右候補者の選挙運動者である乾九左衛門に対し、右候補者のため投票取纒方を依頼し、之が運動資金として、現金一万五千円を交付したものである。」と言うにあり、また、同被告人に対する同年十一月十七日付起訴状掲記の公訴事実は「被告人は昭和二十九年八月十日施行の大野市長選挙に際し、同市長に立候補した斎藤重雄の選挙運動者であるが、同候補者の当選を得しめる目的を以て、同月七日頃大野市春日二百二十五の五十七番地の川崎港方に於て、同候補者の選挙運動者である山田訓蔵より、同候補者の為投票並に投票取纒め等の選挙運動を依頼せられ、その運動資金並に報酬たるの情を知りながら、現金一万五千円の供与を受けたものである」と言うにあり、さらに検察官が被告人杉川三助の在廷する原審第五回公判廷に於て、弁護人の同意の下に口頭を以て追加した予備的訴因は、「被告人は昭和二十九年八月十日施行の大野市長選挙に際し、同市長に立候補した斎藤重雄の選挙運動者であるが、同じく同候補者の選挙運動者である被告人山田訓蔵と共謀の上、同候補者の当選を得しめる目的を以て、同月七日頃大野市春日二百二十五の五十七番地の川崎港方に於て、右候補者の選挙運動者である乾九左衛門に対し、右候補者のため、投票取纒方を依頼し、之が運動資金並に報酬として、現金一万五千円を供与したものである。」と言うにあつて、これに対し、原判決は、挙示の証拠を綜合し、前記予備的訴因と同旨の事実を認定し、該事実をもつて公職選挙法第二百二十一条第一項第一号刑法第六十条に該当するとし、その外刑法並に公職選挙法所定の相当法条を適用した上、被告人杉川三助を懲役三月(二年間執行猶予)に処すると共に、他方該理由末尾に於て、本件本位的訴因と予備的訴因とは、事実の同一性を欠くものでないこと、及び昭和二十九年九月十八日付並に同年十一月十七日付各起訴状掲記の公訴事実については、いずれも犯罪が成立しない旨判示していることを認め得る。弁護人は「本件予備的訴因は昭和二十九年九月十八日付起訴状掲記の公訴事実に対する予備的訴因であつて、同年十一月十七日付起訴状掲記の公訴事実に対する予備的訴因ではない。然るところ原判決は、叙上九月十八日付起訴状に依る訴因については兎も角、十一月十七日付起訴状による訴因に対し、その理由中に犯罪が成立しないと言いながら、主文を以て無罪の言渡をしなかつたものであつて、斯の如きは、審判の請求を受けた事実について、審判を遺脱したものに外ならない。」と主張し、また、原審第五回公判調書を閲すれば、検察官は弁護人所論の如く、被告人杉川三助に対する昭和二十九年九月十八日附起訴状記載の訴因に対し、予備的に前叙の如き訴因を追加したい旨明示して、予備的訴因追加に対する裁判官の許可を求めたものであつたことを認め得ない訳でないけれども、しかしながら、前記両起訴状掲記各公訴事実を、右予備的訴因の内容と対照して彼此考察するときは、叙上予備的訴因事実は、ひとり前記昭和二十九年九月十八日付起訴状による訴因に対する予備的訴因たるに止まらず、同時にまた、同年十一月十七日付起訴状による訴因に対しても、予備的訴因たるの実を、兼備えて居るものであることが明白であり、従つて右予備的訴因に対して有罪の判決を下した原判決は、その両者について、一挙に判決したものであつて、前示昭和二十九年十一月十七日付起訴状による訴因に対し、判決をしなかつたものでない。なお原判決理由中叙上二個の所謂本位的訴因については、犯罪が成立しない旨の記載は、これ等訴因の内容を構成する事実が、原審認定の犯罪事実より独立し、別個に他の犯罪を構成するものでないとの趣旨に解し得るから、原判決はその理由中、必ずしも齟齬の存するものでもない。そうして見れば、原判決は審判の請求を受けた事件に対し、判決をしなかつたものでなく、またその理由中に齟齬の存するものでもないから、論旨は理由がない。

(裁判長判事 成智寿朗 判事 沢田哲夫 判事 柳沢節夫)

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